◆冒頭
現在の日本では、最低賃金は上昇しているものも社会保険料や税金の金額が増えたことにより手取りが少なく、また経済的不況や物価高等を理由に収入が上がらないことが、メディア等でよく目にするようになりました。
賃金に関する問題は、大きなトラブルに発展することも多いです。
そのため、労働基準法では「賃金の支払」について、具体的なルールを厳しく定めています。
今回、「労働基準法第24条(賃金の支払)」の中に定められている、「賃金支払いの5原則」を中心に、その基本と実務上のポイントについてお話いたします。。
◆「賃金支払いの5原則」とは?
労働基準法第24条には、賃金の支払いに関して以下の5つのルールが定められております。
①通貨払いの原則
②直接払いの原則
③全額払いの原則
④毎月1回以上払いの原則
⑤ 一定期日払いの原則
① 通貨払いの原則
原則として、現金での支払いが必要です。
そのため、商品券等の現物給付や小切手などで支払うことは禁止されております。
但し、労働者の同意がある場合には、銀行振込などの「口座振込」で支払うことは可能です。
(振込手数料は会社負担とする必要があります)
※令和5年4月から法改正により、電子マネーで賃金を支払うことができる「デジタル払い」が認められるようになりました。
② 直接払いの原則
賃金は労働者本人に直接支払うことが原則です。
未成年者の保護者や労働者の代理人であっても代わりに支払うことは違法となります。
③ 全額払いの原則
原則、所得税や住民税などの税金や雇用保険料や社会保険料(健康保険料や厚生年金保険料)を除き、賃金は全額支払わなければなりません。
但し、「賃金控除に関する協定書」(届出不要)を労使間で締結し、就業規則や雇用契約書(労働条件通知書)に定めていれば、上記以外に会社が定める制服代、食費や互助会費などを賃金から控除することは可能です。
④ 毎月1回以上払いの原則
毎月最低1回以上は賃金を支払う必要があります。
(賞与や臨時に支払われる賃金は、この原則から除外されます。)
⑤ 一定期日払いの原則
支払日はあらかじめ「一定の期日」を定めておく必要があります。
(賞与や臨時に支払われる賃金は、この原則から除外されます。)
例えば、「翌月15日支払い」や「当月末日支払い」などが該当します。
「毎月第2金曜日」や「15日または20日」は違法となります。
但し、銀行振込の関係上、支払日が休日で支払うことができない場合、休日の前日(または後日)に支払うことは可能です。
◆違反するとどうなる?
労働基準法第24条に違反した場合、30万円以下の罰金(労働基準法第120条)が科される可能性があります。
◆よくある質問
Q 今月売上が少なかったので、従業員に給与の支払いを遅らせることはできますか?
A 売上が少なくても支払いを遅らせることはできません。
Q 給与支払い時には「給与明細書」は渡さないといけませんか?
A 渡す必要があります。実は「給与明細書」に関して、労働基準法では規定はありません。
しかし、「所得税法第231条」には、会社は従業員に交付する義務があると定められています。
Q 会社の備品を壊した従業員に対して、修理費用や弁償代を給与から控除することはできますか?
A 原則、一方的に控除することは違法となります。
支払いを求める場合は、従業員に同意を得て、直接支払ってもらう必要があります。
◆まとめ
労働基準法第24条は、「労働者の生活を守るための最低限のルール」として、定められております。
「お金」が関わる問題なため、会社側としては、「知らなかった」、「慣例でやっていた」では、済まないことに発展することもあります。
正しい知識と実務対応が、会社と従業員の信頼関係を守る重要なカギとなりますので、ご心配の方は、是非一度当事務所までご相談ください。